灯り
葉leaf




残業は満水のように人の呼吸を苦しくする
亀裂の入った脳髄は眼に映る街を遺失してしまい
人が慌てていると街の灯りは脳髄を修復してくれる
街の灯りは平等な優しさでどんな解釈も強いない
ただ人が居ることを証明し温もりを伝えてくれる
自然も音楽も家族もない人工的な帰宅列車の中で
街の灯りだけが闇をゆく人の孤独を修繕する

街灯は人を待ち続けているが
ただ疲れた人を照らすだけでどんな出会いもない
人が街灯の灯りを挨拶だと気づいてくれる日は来るか
だが人が挨拶を返してきたとき
街灯はそれでもなおただ照らし続けるだけなのだろう
そしていつまでも人を待ち続けるのだろう

車のライトは何もない夜道にいくつもの幻想を浮かび上がらせる
標識があったり建物があったり人が通っていたり
自動車は一個の夢製造機だから
本当は自動車の前には何も存在しないのに
ライトは人を楽しませるために幻想を生み出し
人を優しく騙してくれる

窓の灯りはおしゃべりだ
もともと窓は昼間でも互いにかしましくおしゃべりしているが
夜になると部屋の住人の自慢話になる
もちろん全てはでたらめで
窓たちはそれを承知の上で笑い合っているのだ
夜ゆく人は窓のおしゃべりを見上げて愉快な気分になる


自由詩 灯り Copyright 葉leaf 2014-10-19 04:48:47
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