詩のレシピ(改)
hadukino

I.栄養
すきなことばが変遷して。落ち着かない気持ちもことことと。同じ鍋に入れて煮込む。市販のルーでも掛け合わせれば好みの味にできるんだ、と自慢げに。何が混ざっているのか当てる器量はない。「おいしい」「そう、よかった。次はあなたね」。じゃあ流行りのシヲレモンでも。

明滅の狭間に並ぶ人達がふと、糸が切れたように表情を失くす瞬間。コンビニで始まったおでんの匂い。なにもかもが手軽に済ませられるようになって、効率化。効率化。人の温かみも。めったに手に入れられない、ということも。でも触れることはできる。技術の進歩で。

有名スーパーが再建失敗して、百均メーカーも破産。景気回復と連呼する街頭のスピーカー。うまいものかいやしがあれば、客は寄ってくると見越して腕を確かめる。材料は改めて揃えればいい。ありあわせでも構わない。同じ轍は踏まないようにと思うが手はすべるだろうね。

こねなくても寝かさなくても、混ぜるだけで美味しいプリン。ぷるぷるした原稿に目星をつけて甘い空気が漂う。見る句は濃い目。絡めるソースは社会派。生繰り意味を載せ忘れないように。手応えのなさに隠れた包容力が母の持ち味。と気付くのは大人になってから。

そのまま目覚めなかったら、何処かへ行ってしまった蝉時雨と一緒に消えてしまう。どこの並木道でも満開の下は魂が吸われる。ぐい。ぐい。秋には耽るものが多い。浸っている間はもっていかれにくい。上手くいけば身代わりの背を押す。後は冬まで美味を堪能するんだ。

飲み込んだものが何なのかを聞く前に「おいしい?」と問われ、カエルの鳴き声で応えたので、王子様に戻してもらわないといけない。水辺も陸地も気にせずに飛び跳ねて遊んだ昼間のことはもう忘れてしまった。快楽の一欠片だけがポケットに残っている。

答えが箸の先から剥がれないので、いつまでたっても僕のものにならない。味覚だけが研ぎ澄まされ、腹はいつまでも満たされない。まだ読書量が足りないのか。贅肉は無駄な知識の蓄積なら蘊蓄でも語れればいいのに、ただだらしなく揺れているだけだ。

鬼子飼う親が夕食の支度に食えたもんじゃない説教を切り落とす。コワイモノが顔を出したらそこも切り落とす。手で掴める分は残す。思いやりの味は角が生えた頃に思い出すようにできている。ひと手間は入れるだけ。これで今夜も黙らせる。泣きたくなければおとなしく食え。

骨董から懐かしい音が響いた。昔になってしまった肌が震える。今は知らない生活に埋められた空白。食卓から引き上げられる食器たち。耳の奥にいつまでも残る反響。何度も繰り返した手順。今日すべてを許容する一言をメモして。デザートはお風呂の後に準備する。

晴雨兼用の完全な睡眠中「心配だから」と寝言。眠れない気持ちがザラメになる。起きたらスプーン2杯いれてあげよう。ブラック派な君のコーヒーに。目が覚めるだろうな。そしたらこれがお礼だと教えてあげよう。


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II.生活
幼い牙をむき出しにする。青空に抜けた甲高い声援。昼で一旦お開き。めいめいに箱を開けると花が咲いた。秋の香りが一面に広がる。道行く人が気を取られて振り向く。ずっと見守っていく怖さ。いつか離れてゆく怖さも、いまは呑み込んで、噛みしめる。

誰の目にも馴染みのあるアイコンを自分なりに並べてみると、十人十色の地図ができる。川が貫く街、山の麓に広がる街。子供の頃遊んだ神社があり、大人になって旅立つ為の駅がある。電車の行き先は君の地図につながっているといい。

重度の歪みを足早に過ぎ行く人。青いランプが照らすベンチ。似通ったテンポでどうしたいか迷っている。まばらな雨音に紛れる通過点の確認。気にしちゃいけない。最善よりもひっそりとした安寧を。指先が触れるだけの出会い。もう一歩踏み込めないままの。

昼夜を失くした現代の怪談話。作者読者の隙間を埋めた無名。ソーシャル化される人でなしの理由。字面を見ているだけで痛い。夜の遊歩道を抜ける穏やかな風。首筋を撫でたものに自信がない。護る力をつける方法を手軽に探す。行為が結果にすり替わっていると気付かずに。

温室育ちが重宝される。美味しそうに平らげられる。都合のいい様に扱われる。大衆化して羨望の対象となるビジネスモデル。無菌、無毒、無害。絶対の信頼が幅を利かせる。問題があれば叩き売られて損はない。いいことづくめじゃないか。求人情報にため息をつく。

キリギリスがアリに情けを受けた話を聞いたコオロギは美声を保ってさえいればずっと飼ってもらえる一生に安堵した。一芸身を助ける世ならよかったが今はゼネラリストが求められる時代。もう一つ資格を増やしておこうか悩んでいる。認められるための努力は終わりが見えない。

この週末はしっかり休むことに決めた。吶喊の序だ。希望を壊す。叩き壊して出ることができたら、寂寞の雨が体を冷やさないように陽気に生きようと思う。だが敬愛する漱石先生の胃弱ばかりを受け継いでしまった。力ない叫びは届かないかもしれない。だがこの言葉は残る。

へその緒を収めた小さな箱。仏間から取り出して愛おしげに眺める母の目に、私は映っていない。原初の記憶は一方通行で、いつか通行止めになる危惧さえ孕んでいる。それでもいきなさい、あなたはいきなさい。背を押したのもまた、母だった。


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III.模索
飛び石に足を滑らせて落ちた。先は。シの間際、わたし為らしめる呪が解かれて命綱になる。境界線にフックして描く古い十字架。背負ったものを捨てる機会はめったにない。力を緩める手。溺れてもいい関係を取り違えた子のように。泣く。

トリビュタリが全身に張り巡らされる。例えば左手薬指には孤独。右手人差し指には希望。脚に流れる目標が止まらない。血筋をのこしたい。と思ってもう、そうしている。どうきは不純がいい。混じり気のないイノセンスはよくしに抗えないから。

犬用骨のステレオタイプな形に安堵する理由。わが身に不可解なものが埋まっていない証。がらくたばこに隠れたたからばこを探す。でっぱりをブレード代わりに庭先を掘り返しても答えは出ない。料理に見立てた暗号を解いたら違う場所をさしていた。

渇望が満たされたのはいつだったか。ウソをつくようになり。不服をそっと閉じる様になり。些細な苦悩を押し殺す様になったのは。醜いものを隠す様になり。生を視野に入れる様になり。シを意識する様になったのは。正しさよりも、自分の信じるものを。手に入れたか。


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IV.思索
暗譜なんて数える程しかできない。どれもただ喜ばせたくて、そう。練習したコードに縛られてる。AAA…いつか名もない自由がいいといった。気ままに行きたいところへ行けるように。地平線の夜明けのようなイントロを奏でる。きみが凛とした決意の言葉をのせるための。

オールドファッション。裏打ちでアレンジされてもこぼれてしまう。拾いにくいったら。思い思いに傾けるグラス。テキーラの飲み方が違うと教わった。お前の全てをたたきつけろ。そいつがカッコよければ自由になれる。モノにしたいスタイルが増えていく。

裏表がなくなった関係に途惑う。一気に飛び越えようとすると却って躓いたりする。どこかで洗いたてのシャツが風に翻るように自然に。まだ知らないことは隠しごとのように肩を寄せる。メロディは浮ついているよりも足音を刻むようにいたい。次のアルバムを手にするまで。

日暮れの波を縫う声色は言葉の色と思っていた。梟の名はミネルヴァだったかネストルだったか。もう一度問いかけ直す。上塗りする前の構図は何だったかな。いいところ見せたかったんだ。力及ばずに柘榴の割れた様でごまかしてしまった。お気に入りはなかなか渡せないね。

背中が敷かれた石畳に詩想の落ち葉が降り積もる。楓には記憶。銀杏には祈り。メタセコイアには安らぎ。桜ですら紅く色づいてきれいだ。何か言いたそうにしている顔。沈黙を打ち破る、ちから。意味を持たない街の名。いっぱいにひろがって。いっぱいにあふれる。


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V.旅程
眠りに就いて歌紡ぐ。旅。より確実に。機を逃さず。探求し。好奇心は。より深く。なお廻る。LIFE ON MARSの夢が連なる。とても普遍的な言葉で、あなたはそこにいる、と告げている。初めてアイスクリームを頬張ったときの感嘆。世界に放った第一声で。

おもてに書き付けたハイライトには成功への意思。昇りゆく煙を見上げた旅の軌跡は受け入れた証。塩っぱい記憶にも豊富なバリエーションがある。どんな思いが込められていたかは知らないが生きようとするから味わえる。ぐにゃぐにゃしててもまっすぐにさ。

いつまでたっても混合しないんなら不均衡なままでいいじゃん。君の口癖は「それも個性」。気ままな科学者の研究対象はいつも秘密で。いつも夜に振り回される。成果が出続けてさえいれば喜んだ。結果を欲しがるよりも長続きする秘訣だとずいぶん後になって知ったよ。

ハシビロコウの眼つきに囚われ嘴に挟まれた。雨の海に浮かぶ船の上、テレメトリは正常。会うなら普通のコウノトリが良かったな。選り好みできない食環境で任務は予定通り。カルシウムとビタミンだけだと偏ってないか?誰も気にも留めないか。今日の相手はきみだもんね。

真昼に星が消え、消えた星をつかまえたという。青空高くゆらぐかげろう。鎌のように笑う白い月。そろそろ刈り取れと老婆心を降らせる。覚束ない足もとに咲く星の花。自分の代わりに根を張ってくれる。勝手な約束がまた一つ増えた。そしてまた一つ君から離れてゆく。

テールランプが遠ざかる。見届けて山荘へと向かう。迷いのある足跡。決意の一歩が踏み越える。小さな花もまた。断絶の果て。あてのない尋ね人。蔦の絡む垣根が続く。雨が降り始めた。草木が歓声を上げる。涙を紛らせた心が安堵している。

私の世界が終わりを迎えた。華やかなパレードが蜃気楼を目指す。見送った後、踵を返して次の終わりを探しに行く。田園風景を過ぎて、カフェラテで一息。八割方の満足が得られたら新天地の鍵を手にしている。扉を開けるかどうかは、まだ決めていない。




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EX I.
一人抜けても回るようになっている
不自由な水槽を右から左へ
どこにもいけない
いたいのもとんでいかない
なにも通らない喉の裏側がささくれだって
生きる欲だけを主張する


EX II.
受信アラームは風鈴の音
胸中ではとっくの昔に既読になっている
寂しさを抱えているのは
そう感じているほうで
とっくに行先を見つけているかもしれない
だからさよならとていねいに書いた


ハッピー・バースデー
満面の笑みを咲かせて
甘い匂いが広がる日
両親と祝った日
友達と祝った日
仲間と祝った日
貴方と祝った日
子供と祝った日
孫と祝った日
去年も祝った日
今年も祝う日
来年も
その先も

ケーキを平らげる量は
随分減ったけどね


EX III.
小さな球の中で降らせる雪は
どこにもいけないことを嘆くのか
いつまでも形あることを喜ぶのか
身動きが取れない僕を白く染め上げようと
君は外で世界を振っている


船底に裏打ちされた確かさから
海面に散る煌めきを背に
緩やかに降りてくる人影
天使に見えたかもしれない
あの姿を目に焼き付けたか
その答え合わせを求めて
魚たちがそらに舞う夢を見る


辞典の言葉が辞典を形作る
私の身体はスカスカだ
風が吹けば空鳴りがする
何から足していくか
もっと削るか
必要最小限の機能美を目指すか
読み違えたとしても
新たな発見があり
積もり積もって
いつか
憧れの名乗りを上げる


EX IV.
胸につかえた実が花咲く頃には
見知らぬ風景が望むままに
めくられていく

感覚器官の同じところが
疼く
見つめる先は違うようで
めぐりめぐっている


シニシカント
より高みにある
ノチゥカント
古来の認識は自然にありながら
正確に物事を捉えていた
空を見上げる所作は
今も昔も変わらない
呼び名が違い
捧げる祈りは様々でも
根元にある想いは
連綿と続いている


ハカバニハニワカシジンガイテ
コンクリートノカベヲ
ニラミツケナガラ
ワラッテイル
ヲトメノヨウニ
ヌマニハマッタ
ケソウスルシソウデ
ロマンチックナシヲツヅリナガラ


EX V.
声調を気にしすぎてはだめだよと
やんわり諭す掌のかさつきが
右手の甲に貼り付いて消えない

面影は翻した袖の通り道に埋めた

花壇にアベリアが咲く間は
目印になるから

冬までにはおいで


バザールに寄ったキャラバンの隊長は
お目当ての物に出会えなかった夜
馴染みの茶器に一杯の紅茶を淹れて
次の商機に願掛けをする
もう一杯は家族の安泰へ捧ぐ
どこからか野犬の遠吠え
持ち帰る品々の中には
質のいい産着が数着
最後の一杯は
良い人生を願う


踏まれて強くなったと教えられてきた
実は流れるように生まれてきたのだと
或る日見せられた書類が
私を誕生の秘密に向かわせる
過去を遡る旅程は
未来を測る行程でもある
知りたいのは真実でも真理でもなく
私という存在である


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fromツイッター連詩「詩のレシピ」 #pwGT組 2014/09/21-2014/10/05
自作詩部分を抜粋、再構成


自由詩 詩のレシピ(改) Copyright hadukino 2014-10-11 22:00:05
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