阿武山
るるりら

「土砂崩れのあった山のあたりは 幾たびかの土石流が重なりあってできたので、昔の地名には、 それが残っていたらしい。」と、母が どこからか聞いてきた。調べてみると 阿武山というのがある。
【阿】という文字は「山や川の曲がって入りくんだところ」という意味をもつと、つい先日 詩友が教えてくれたばかりだ。
 また 阿武山の゛あぶ゛という響きは、「あばく」が転じたと云う説や 崩れやすい性質である花崗岩の山は みな「阿武」がつくという人もいるようだ。

花崗岩を毛嫌いしても とてもありふれた岩だ。この岩は、地球以外の天体にはほとんど見出されないという。それというのは、花崗岩の形成には 水の関与が必要で 海の存在する地球でのみ 花崗岩ができるらしい。

私たちの命の源もまた、地球の大量の水に煽られて 磨かれ生まれてきた。いわば みかげ石のような 私たちの命だ。
水なくしては 存在してないし存在できない。
しかも 水に揉まれ溺れてしまっては生きてはいけない。

阿多多羅山の山の上に/毎日出てゐる青い空が/智恵子のほんとの空だと云う

阿多多羅山は 元来は「安達太良山」と呼ばれている。
智恵子の知っていた ほんとうの空を 私は知らないが、その御山も太古の海の記憶があるのかもしれない。
安心の「安」があてられていた 安佐地域の阿武山には、危険が ひそんでいた。
智恵子は御山の原始の空を見たのかもしれない。


際立つ水際の御山に、阿多多羅山を思った。
毒々しい嵐だからこそ雲間には光がある。
胸のところに手を置いて 思いを遠く光へと翳した。


散文(批評随筆小説等) 阿武山 Copyright るるりら 2014-10-06 15:47:40
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