私の夕焼け
やまうちあつし
夕暮れの駅前。
あの人は呆然としている。
空は焼けるような橙。
自分ながら不思議に思う。
(いつも見慣れた光景なのに
どうしてこんなにあっけに取られる。
ばかなのだろうか。)
人通りが増え、肩がぶつかる。
あからさまにうとましげな通行人も。
身体の内がぷつぷつと泡立っている。
血液は炭酸水か。
胸が夕焼けで満たされてゆく。
(私の中の夕焼けは
あと何度暮れてゆくだろう。)
☆
あの人は旅に出た。
というより、どこかへ行ってしまった。
仕事も家族も財産も放り投げ、跡形もなかった。
唯一、生きているのがわかるのは、時折送られてくる夕焼けの写真から。
見慣れぬ山里や、どこにでもある都会の雑踏。
(私の胸の夕焼けを
注ぐグラスがどこかにないか。)
そんなことは書かれていなかったし、
そんな写真を送られたって、何のなぐさめにも、つぐないにもなりはしない。
あの人は今日も、どこかの夕焼けに立ち尽くしていることだろう。
なんという、無駄遣いをするのだ。
けれどもそれは、とても正しい。
自由詩
私の夕焼け
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やまうちあつし
2014-10-06 13:37:26
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