364日
為平 澪

ドラマチックに声をあげながら 静止していくのは
流れるはずの血液 聞こえるはずの心音

足早にそこから立ち去っていきたいのに
抱えた季節を手放せないから 動けない

与えられた名前の一生分の意味を
順番に呼ばれてゆく葬列の後ろ側には
もう、誰もいない

頭の中を電車が通過してゆく
その響きが終わらないうちに
触れ合った肌のぬくもりが 凍えて
冷えた 冬が顔を出す

黒い携帯を 雪の中に埋めて
着信履歴だけを残したまま 壊してしまいたい

名前を 呼ばれていた
「あなた」と呼んだ私ではない人に
ちがう名で呼ばれる 「あなた」が

(処方箋をください。黒い携帯と同じようなものを)

白いジャケットを羽織った多くの人に
私の時間を三百六十四日分 支払うと
携帯の履歴だけ袋に詰めてもらう

あとは 
透明に滴り落ちる 一日に縋りつくだけ 


自由詩 364日 Copyright 為平 澪 2014-10-01 22:50:54
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