四国旅行中の夢日記
中川達矢
2日目の夜、不思議な夢をみた。
舞台はまさに舞台。学校の教室のようなところで、20ぐらいの人が集まって劇の稽古をしている。僕はなぜか主役だ。だが、手元には台本がなく、僕の出番が来てもセリフがわからない。
どうやら今練習している場面に僕のセリフはないようだが、みんなが舞台上に出て、とにかく動き回らないといけないみたいだから、周りに合わせて不思議な動きをする。
この場面の練習がおわり、次の場面にうつったようだ。どうやら、僕のセリフもあるみたいだが、みんなが持っている台本はなく、やはりセリフがわからない。周りが演技している中、いよいよぼくのセリフだ。何も言えない。視線がいたすぎるほどにささる。しばらく間が空いたあとに「○○○!」とぼくが言うべきセリフを誰かが大声で言うが、聞き取れないものだから、自信なく、あやふやに繰り返す。
そんなやり取りが何回か続きながらも稽古は続けられ、さすがに監督から怒られてしまう。どうやら僕の本来の職業は漫才師か何かのようで、みんなが舞台の稽古をしている間に僕はお休みしていて別の稽古か何かをしていたようだ。
お前は違うものに勤しんでたからできないんだ、そんなの言い訳にならん、とか怒られるが謝るしかない。
僕は泣き始めてしまうが、周りの演者も慰めてくれるわけではない。主役は誰よりもしっかりと練習してくるべきなのだから。
出番のない演者がいる舞台下に降りて、様子をみていた時に、一人の演者から台本を差し出される。
どうやらそれは僕の台本で、なにかの機会に僕が台本を貸していたみたいだ。ようやく台本を片手に稽古を進めるが、今どの場面をやっているのかわからず、台本自体、ほぼ初見のようだ。使い勝手がわからない。と言っても稽古は進行しており、主役である僕に親切にする人はおらず、場所を教えてくれない。
再度、僕は監督から怒られ、僕はひたすら謝った。台本を誰かに貸していたことを言い訳にできたかもしれないが、貸していた彼に申し訳なくて、僕はただ自分がいけないのだと謝った。
最後のシーンで演者がはける踊りをするみたいだ。
舞台の左右で演者が二組にわかれ、前の人の腰に手を回し、5人ぐらいでひたすら円を描くようにまわりつづけた。
僕は主役だから、円の先頭にいる。僕の腰に手を回しているのは、ヒロインと思わしき妖艶な女性。
向かい側の円の先頭には、準主役と思われるかっこいいお兄さんだ。おそらく彼は主役をやりたかったに違いない。動きも華麗だ。
円を描きながらの陽気な踊りは、次第に人が減っていく。円の後ろの方の演者から舞台の中央に行き、演者挨拶のように最後のセリフを言って舞台からはける。
僕の後ろのヒロインは僕の腰から手を離し、中央に躍りでて、陽気に挨拶をする。準主役はそれを盛り上げるのも上手だ。
準主役も挨拶をして、僕だけが舞台に取り残される。相変わらず何をしていいかわからない。
中央に出て、何かやろうとしたところ、どうやらこのシーンは終わりを迎えたみたいだ。僕が挨拶するシーンは別にあるみたいだ。
その稽古もあるのかと思ったが、どうやらその日の稽古は終わりみたいだ。みんなは舞台からはけ、思い思いに笑顔で談笑し始める。
ひとあな抜けたと一安心するが、稽古後の周りの視線がこわかった。
舞台の稽古をしていた音楽室のようなところは、次の予定が入っているみたいで、僕は隣の控え室のような小さな部屋に移動した。
次々と演者さんが入ってくるので、お疲れ様でした、と声をかける。「お疲れ」「まあしょうがないよ」「次がんばろうな」と次々に言われる。
確かにできないものはできないし、台本も手元にあるみたいだから、次の稽古までにはしっかり練習して取り戻すつもりだ。
ちなみに、周りの演者は僕より少し年上ぐらいだと思われる。
僕の夢で舞台が学校であっても、周りの人は大人である。
場所はおそらく学校のままだと思われるが、場面が変わる。
今はどうやら昼休みみたいで、次の時間に体育の授業があるようだ。僕はなぜか音楽室に体操着を忘れたみたいで、取りに戻る。
再び教室に戻って来たら、みんなは教室でキャッチボールをしていたり、ボールをけっていたりする。まだ昼休みだというのに。
僕はその遊びになんとなくはいって、ボールを蹴ったり、バスケットボールでヘディングだけのリフティングをしたりする。たしか、さっきのヒロインもその中のどこかにいたはずだ。僕がうまくリフティングできないでいると、知らない女子が得意気に一本指の上でバスケットボールを回し始める。
そんなふうに軽く馬鹿にされるのもさっきの稽古と比べたら、楽しいものだ。
気づいたら教室にはある程度人が集まり、それも七階で壁がなく、空中に浮いているようだった。
そんなさなかで、少し離れた先に突然竜巻が起こり始める。
おそろしい恐怖だ。教室はぐらぐら揺れはじめ、崩れるかもしれない。
教室の中にあるエレベーターで僕は必死で降りようとする。周りの人は、机に座ったままで焦る様子がなく、僕はエレベーターの到着を必死で望んでいた。どうやら隣で同様の面持ちの男子がおり、エレベーターが到着して、二人だけが乗り込んだ。
僕らは下に行きたかったはずだが、エレベーターはなぜか10階に向かう。非常事態だからエレベーターがよくわからない動きをする。
10階についたものの、隣の男子は、閉めるボタンを押したままにして、扉を開けないようにする。いたずらっ子の笑顔を浮かべているが、そんな場合ではないだろう。僕は咎めて、エレベーターの扉を開ける。
すると、目の前には無残な光景が広がっていた。
10階の扉が開いたはずなのに、3階ぐらいの高さから外を俯瞰しているような景色。
地面が少し抉れていて、線路の上で電車が横転している。目の前には救急隊員がおり、片手に何かしらのぬいぐるみを持っている。
「あーあ、君たちが開けてくれないから、○○ちゃんは助からなかったよ」
どうやら犬か何かのいのちを奪ってしまったようだ。
隣の男子のいたずら心で奪われたいのち。
僕は何も言い訳をせず、隣の男子は泣きはじめた。
僕らが乗っていたエレベーターは、足場となっている箱の部分だけが取り出され、紐で吊るされた状態で徐々にしたにおりてゆく。
地上に飛び出せそうな高さになり、外におりてゆく。
僕は隣の男子に何かしら声をかけたかもしれないが、気の利いたことを言えた覚えはない。
僕らは別れ、思い思いに雨の降るまちを歩きはじめていた。
場面はまた少し変わり、雨は止んでいた。
学校の人工芝のグラウンドがいくつかあり、周りはサッカーをする人で溢れている。どうやら世界的に有名な選手がいるらしく、大会があるようだが、雰囲気は運動会のようだ。
僕はビブスを着ていたおかげで、関係者と思われているらしく、グラウンドのへりを歩いている。
みんな自分の出番を待ちわびて、ボールを巧みに操りながらウォーミングアップをしているが、大会の開かれている会場は離れたところにあるようで、ここは控えが集まるサブグラウンドのようだ。
それでも周りの人のボールさばきは上手で僕の居場所はここにないようだから、居場所を求めてグラウンドを後にする。
学校の廊下のようなところに行き着くが、そこは電車のホームのようになっており、今度は野球のピッチングフォームを確認している体操着の男子が何人かいた。
それを横目に僕は廊下を歩き、突き当たりにある重たい扉を開いた。
そこには、10人近くの女子が集まっていて、さっきの舞台のヒロインもいた。
彼女は僕を見るなり、笑顔でよってきて、僕はなんだか嬉しくなった。
だが、ここに集まってるのは、さっきの竜巻が起きた地域の出身者のようで、お互いの家の様子を報告しあっているようだ。
僕は出身を尋ねられ「埼玉です」と答えると「なーんだ」と少し馬鹿にされた。
部外者の僕がここにいるべきではないのだろう。だが、ヒロインの子が少しフォローをしてくれて、僕はそこに流れる重たい空気の中にいることになった。
誰にどのような被害が出たのかは正確ではないが、家と連絡が取れない人もいたみたいだ。
「幼いいのちがうばわれなくてよかったですね」という一言が誰かから放たれた時、「いやそうでもないようです」とその場にいた初老の方が口を開く。
ここにいたのは女子だけではなかったことにようやく気づいた。
「幼いいのちがうばわれたのはな…」と初老の方が語りはじめ、皆が耳を傾けた時、僕は目が覚めた。
ちなみにヒロインの方は、僕がお会いしたことのある人ではなく、知らない人であったが、その見た目といい、気遣いといい、魅力的な人であった。
そのうちいつか会えるのだろうか。