夜間飛行
凍月



冷たい風の音だけが聞こえる
悲しい夜の寒さだけを感じる
月に向かって飛ぶ機体は
陸に全てを置き去りにした

街の遠い灯りが見える
知らない街の時計塔を見る
左に沈んで曲線を遺し
あの青白い光を目指した

冷たい風を機体から感じる
僅かな振動の変化だけで
僕の感情は揺らいでゆく
それでも夜空は澄み切って
高度のゆるやかな上昇につれて
地上の混沌が濾過されてゆく
死ぬ時は一人、空の上
生きている今も一人、雲の上
浮かぶ黒い海を進む船に独り


冷たい風の音だけが聞こえる
空の底、大地から遥か上
完全なる孤独に浸る夜
寂しくて悲しくて
そして清々しい空で
青い月を横切る機体


空気が薄くなるにつれ
沈んでゆく悲しい夜の中
冷たい風の音さえ聞こえない
茫漠の静寂にただ独り






自由詩 夜間飛行 Copyright 凍月 2014-09-24 20:25:40
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