肉腫
島中 充

      肉腫

ウクライナで民間機が撃墜された日
駅前のロータリー 車のうえから叫ぶモノがいた
シナ人を追い出せ 朝鮮人を追い出せ 叩き出せ 殺せ

安田講堂に全共闘の旗がひるがえり バリケードが築かれた日
戦争反対のシュプレヒコールのなか 喜々として僕は
街宣車にむかって あほんだら帰れと野次った
三人の男に路地裏に追い詰められ
ごめんなさい ごめんなさいと謝る僕は袋叩きにのされた

僕の胃の中にその赤子はいる
めくらではない 目がないのだ つんぼではない 耳がないのだ
何も見ない 何も聞かない 
ナイフで切り込んだ埴輪のような口だけがあった 叫ぶだけだ
僕の胃壁を食いちぎり 穴をあけ
そこから僕の肉を食いつくしていく

ハイルヒットラーと唱えるたびに
少しずつおおきくなり 子供へと成長していくのだ
ユダヤ人八百万を殺した それが悪いことか
比叡山延暦寺で六千人を殺した それが悪いことか
処女から生まれ 十字架に刑死した者は 生き返り
ジハードで死んだ者たちは 死後七二人の処女と交尾する
仇討をして四十七士が切腹し
皇国を守るため三百万人は 戦争で死んだ

ハイルヒットラー唱えるたびに そいつは大きくなり
内臓から僕を食いつくし成長し 大人になり 大男になり
僕の肉腫が車の上から 叫んでいる
悪い朝鮮人を殺せ 良い朝鮮人も殺せ
生活保護で食っている在日にウンコを食わせろ

あいつだ 野次ったのはあいつだ
あいつはまだ生きている
肉腫は目のない目でカルテを読み上げ
あいつを捕まえろ 
無理やり僕の手をひっぱり連れて行こうとする
死の世界へ
僕は地べたに尻をつけ 足を突っ張り ひっぱられまいと泣いている
ごめんなさい ごめんなさい


自由詩 肉腫 Copyright 島中 充 2014-09-10 07:38:22
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