繁栄
nemaru

僕たちは後片付けを始めた
片付けるものはそんなになかった
僕たちは会議机を三人がかりで乾拭きして時間をつぶした
机を運ぶという事まで意識していた僕たちのうちの二人は
拭きながらじょじょに机の両端に移動していたが
僕にそのことを告げる事はなかった
そして
机の両端を持つ者は机を持ち上げ倉庫に運びながら時間をつぶした
机の真ん中を持つ僕は自分の力の要らない机に手を添え後ろ歩きで時間をつぶしたが
机を積み上げるときに挟まれそうになり
はじき出された
要らなくなった資料の束を数えている者がいたので
分けてもらいに行ったが
ややこしくなるので
ひとりで大丈夫だと言われた
床にペンが落ちていたので拾いに行くと先に拾われた
拾った者はペン入れにしている元々は長細い洋菓子が入っていた缶を探し始めた
彼に声をかけられた者たちが
倉庫にしまってあるダンボールを開け始めた
彼らはペン入れを探しながら時間をつぶしていた
ほうきを持った者達はゆっくり床を掃きながら時間をつぶしていた
僕はチリトリが必要だと気づいたが
先を越されていた
チリトリを抱えた者達はゴミが集まるのを待って時間をつぶしていた
燃えるゴミと燃えないゴミが混ざっていることに気づいた者は
ゴミをひっくり返して分別し直すことで時間をつぶしていた
台車が必要だと気づいた者は旧館へ向かった
彼の後に続く者達がいたので
僕もそれに続いたが
前の人からこんなに必要ないと言われたので戻った
台車を待つ者は一階のエレベーターを開放して時間をつぶしていた
何人かが二階でエレベーターを待ちながら時間をつぶしていた
会議場はすでにがらんとして
言葉を話せる者達は今日のできごとについて
それらしく談笑して時間をつぶしていた
僕は観念してその場に立つ尽くした
少しの間だけ仕事のない居心地を味わった
僕の頭の中には
少しの間だけ
世界と対峙する
という言葉が浮かんだが
そんな大それたことでもないと打ち消した
そもそもタバコを吸いに行く勇気すら持っていない
僕は
彼女のことを考えた
僕らの子孫は残らない気がしたし
逆にしぶとく生き残るような気もした


自由詩 繁栄 Copyright nemaru 2014-09-07 06:57:15
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