歯痒さで発芽する
ホロウ・シカエルボク









青白く痩せた肉体が
強い熱で焼きつけられたような木立の影
生命の湿気を含んだ呼気は
生まれたそばから掻き消えてゆく


君の祈りを
君の祈りを
君の祈りを
僕が確実なものであるために
閉じられたまま錆びた扉の鍵は
引き剥がすより他に手はないはずだ


死は誠実なものだろう
生は果てしなく嘘つきだ
沼地に沈んで行くような腹づもりを隠し
雷雨の夜の明かりだけを待っている


壊れない、限り
永遠なんて


記憶である限り
記憶である限り
記憶である限り
鼓動は焼き付けられる
反復のどちらかが
無造作に選択されて


霧が穏やかに泳ぐ湖面に
君はゆっくりと手を浸して
身を切るような冷たさで世界を確信する
僕は
君の瞳の輝きが心にともす火を


窓は光のことだけを話すものだ
暗闇の時には口をつぐんでいるものだ
形にならない声というものが必ずある
そしてそんなものこそを僕らは語りたがる
たとえば生きているうちに
どんな風に死を知るのかというようなことを


足跡をたどって閉ざされた場所までやってきて
錆びた扉の鍵を破壊して
それは開くのだと教えて欲しい
閉じられたものは開かれるのだと
迎え入れる場所は解き放つ場所でもあるのだと


僕は木立の中に隠れた行方不明者の亡骸のように
時折窓際で夜を眺めながら
見えない揺らめきを
聞こえない囁きを
見ようと
聞こうとして
精神が引きつるのを感じる
誰かの棺をこじ開けようとするみたいな
罪悪感と興奮にとらわれて引くことも進むことも出来なくなる
差し出した手は空間に針で打たれたみたいに強張って…


粒子の一粒一粒の中に詩はあって
死のように生きるために僕はそれを探している
夜は残酷なほどに盲目で
そしてそこにはどんな理由もなく
新たに創造される世界なんて
もう
どこにも
ないんだと


例えそれが果てしのない皆無でも
まだ人生は終わることはないし
初めて覚えた恐怖を語るように叫びは生まれ続けて
誰にも届かない場所で微かな反響を残して


僕は犬の死体
僕は猫の死体
僕は君の死体
僕は僕の死体


静かに凍てついた土を踏みしめて
約束されなかった埋葬のために目を閉じる
湖の上を霧が泳いでいる
湖の、上を、霧が、泳いで


連なるものを断ち切れば新しい血が吹き出すだろう
血だまりに爪先を落として、僕は新しい夜の盲目を知るだろう
不確かなもののために生きると到達点はない
そのことは、よく、判ってはいるけれど


たとえば行方不明者の亡骸のように
特定されることなく土に還るとしたら
ただの美しい骨になって
地中に陳列されるだろう
特定されない、発見されない、死は
獣たちのそれのようにバクテリアを奮起させるだろう


閉ざされたまま錆びた扉は
ある意味でそんな死に最も近いだろう


窓の言葉を聞き過ぎて、いつでも薄暗い部屋
ハードディスクがその腹に詰め込んだものを漁っているみたいな鳴声の鳥
時々突然に激しい雨が降って
僕らは靴を泥に突っ込んで遊んだ


歩けなくなっても、きっと、かまわなかった


朝日は雲を切り裂くみたいにどこかからやってきて、そう
それが始まる時間が一日で一番寒い時間
それは約束されない時間を恐れてしまうせいかもしれない
身体のせいだろうと心のせいだろうと
それは一日で一番寒い時間


朝に一番よく似合う、素敵な歌をうたってよ
新鮮なミルクとフルーツの並んだ食卓に
小鳥のような無邪気さで囀って欲しい
歌が美しいのは点を線で繋ぐから


湖のほとりで
祈りを
歌を
詩を
死を


そうして種だけを僕たちは食べ残す
それは庭に撒かれて
あらゆる生と死に根を張り



いつか新しい実をつけるだろう


ねえ
少しの間
目を閉じていようじゃないか














自由詩 歯痒さで発芽する Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-09-03 00:50:50
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