Clair de lune
藤原絵理子
‘帰っていけばいいよ’ 風は囁く
蝉の亡骸を無造作に 転がして
叢の端に 吹き寄せた月夜
またひとつ失った 夏の終わりに
冷え始めた孤独は
あたしを そっとしておいてくれない
明るいほうへ 明るいほうへと 駆り立てる
朝 目が覚めたら 当たり前の顔に装う
西に向かって開いた窓から
ただ 夕焼けをうっとりと眺めていた
空が藍を流して 光る砂粒を撒くまで
きみは きみの好きなことをわかっているか?
本当にしたいことを 知っているのかい?
風は 笑いながら訊ねて 去った