トーキョー
智鶴

気怠さを含んだ雨の煙る夜に
朧な眠気と僅かな湿度が
ゆっくりと瞼に幕を下ろそうとしていた
天秤に掛けられた片方の
僕の心臓が固く冷たい鉄に変わる夢を見ていた
錆の軋む音がして
少し寒いことに気付く

真夜中
何処からか遠雷が聞こえる

日が昇れば鮮やかに
灯が燈れば淑やかに
そんな当たり前の理なんて
始めから無かったみたいに彩られた夜だ
巨大な石の化け物に怯えながら
日毎増していく寂寥を持て余す
それが寄り集まって、こんなにも
こんなにも全てを作り上げてしまったんだ

石像みたいに美しい顔をしている
まるで誰かに作られたみたいに
個性の上から嘘と見栄を塗して塗り固めて
皆哀しい石像みたいだ
一心不乱により美しくなろうとして
そして誰もが同じ一人になる
もう皆、何処を見ているかも分からない
白い眼で薄ら笑い乍ら
それぞれが最も美しいポーズで固まってしまった
同じ姿で同じ顔で
でも、誰もそれを見てはいない
見えてはいない

虚像、偶像、イデアリスム
求めるものなんて無限にあるんだ
次から次へと手に入れては
全て捨てていく、それはガラクタだと
必死で求めたそれは実はアヒルの死骸だったのに
まるでよくあることの様に投げ捨てた
あまりにもそれが当たり前になってしまったから
積み重なっていく罪にも罰にも気付けなかった
唯一嘘だけ、虚像だけ
穴の開いた胸で抱き締め乍ら

世界が滅びる夢を見ていた
血と鉄と錆で出来ている
ベクシンスキーの世界観に似ていた
誰もが無味乾燥な理想郷で灰色の仮面を被っている
未完成の美しさに気付かないのはそのせいだ
完璧なものなんか何処にも無いのに
青白く発光する小さな夜中が何よりも大事だなんて
口に出せば繋がりも消えてしまうだなんて
随分永い時間口を開いていなかったから
皆、机上の空論で会話している

錆が軋む音で目を覚ました
冷たい朝がもう其処までやって来ている
夜明け
何処かで遠雷の音が聞こえる

世界が滅びる夢を見ていた
遠くで巨大な石の化け物が声も立てずに慟哭し、頽れた
その時に


自由詩 トーキョー Copyright 智鶴 2014-08-13 23:27:01
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