ただ一度
Giton
楽しかった花火大会 ただ一度。
ビルに隠れて花火は見えない
河原のほうでやっているのだろう
あざやかにきこえる炸裂と離散の点綴音
楽しかった花火大会 ただ一度。
浴衣の壁が行く手を阻む
手をひかれ嫌々歩く花火大会
がやがやうるさい拡声器と煩わしい露店の列
とうに死に絶えた川面に腐臭立ち昇り
アスファルトの継ぎはぎと染みが心に焼き付く花火大会
最後の2分だけ見えた花火大会‥
楽しかった花火大会 たった一度だけ。
異郷に散るたまゆらの灼熱と硝煙を
夢中で撮影しては送り続けた80枚の画像
来られなかった君に時をたがえず見てほしかったから
窓辺でシャッターをきった1時間半
夜空を眺めるいとまさえなく液晶を注視しつづけた秘やかなよろこびは
君の見る画像を覗いている楽しさだったのか
家路を辿るのはもう億劫で
君の肩の向うに陽が落ちたとき
おもわず凭れかかってしまった秋の暮れ
その途が岐れに通じていようとは‥
そしていま 音だけの花火大会
目をつむるなら瞼の裏に大輪の花