zenith
高原漣


「いつも死神と鬼ごっこだったさあ」

赤い星の男『さそり』はそう言って銅色の髭をなでて笑った

極から流星の雨が降る夜だ

魔法にかかったような音楽、特にフルートの音色が

高く低く、遠く近く、詩神のささやきのように

酒場の空気をふるわせていた

さそりは紅玉の義眼が嵌った右目を眇め「あンたぁ見たことないだろうがよ」

筋肉で膨れた腕が口元にラム酒を運ぶ

「燃える宇宙船、星の潰れッちまう瞬間とか」

嚥下する音

「……そういうもんをいっぱい見たなぁ。主砲が反陽子をぶっぱなすのさ」

稲光のような武器が真っ黒い空間を断ち切ってゆく姿を思い出す

「だだっ広い銀河のどこへだってひとッ跳びで」

タンホイザーゲートのC-ビームが煌めくさまが、さそりの脳裏をよぎる

「あの戦艦はそりゃあすげぇもんだったよ」

星々をめぐる、人類史にその名を刻まれる恒星間航行可超弩級戦艦の勇姿を

その場にいた誰もが思い描いていた

亜空間に降る雪

朽ちた鉄の屋根

天翅の子守唄

胸に咲く薔薇

かの宙船にまつわる様々な思いが酒場のテーブルの上を転がった

「あの艦ですら沈んじまう日が来るなんてなぁ」

さそりが日の落ちた宇宙をあおぎ見る

天頂に、蒼い星が輝いていた

人類を打ち倒した

かの使徒たちの母なる星が


自由詩 zenith Copyright 高原漣 2014-08-04 03:20:07
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