夕暮れの魔女
藤原絵理子


子供が泣いている
蝙蝠はやっと 暗い棲家から出て
超音波にのって 藍色の虚空を回る
バネ仕掛けの翼で 熱を切って

抱き上げてあげないと
キッチンの窓から するりと
アメーバみたいに するりと
ぬめりこんでくる パラノイアの囁き

キュウリを切っていると
必ず現れる 夏の夕暮れに
かわいい魔女は あたしを誘って
黒いストッキングを穿かせる

そんな夜は 時間を傷つける
逝った老女の頬に 紅を刷いて
紫の唇に 紅を差す
世界は釣り合って 天秤の両側に

血まみれの妹のかたわらで
埃まみれの少年は 忘れないだろう
いつか何度も 夕暮れの魔女が
訪れたときに 思い出す

子供の泣き声は かき消された
夕暮れの魔女が 天秤の両側に
同じ重さの 叫び声を載せて
世界は バランスを保っている


自由詩 夕暮れの魔女 Copyright 藤原絵理子 2014-08-02 20:42:02
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