浜辺
佐々宝砂

カブトガニに少しだけ似たその生き物は
畳半畳ほどの大きさで
ぜんたいは乾いた肉色だった
甲羅の両脇から生えた二葉の

としか言いようのないものが
彼等の体重を支えた
掌には五本の指があり
指にはそれぞれ白い爪があり
爪のうらがわには
それぞれに個性ゆたかな指紋が刻まれ
彼等それぞれの個性と運命を暗示した
彼等には
ひどく戯画化された飛び出た目のような
器官があったが
それは単なる突起に過ぎず
彼等はいかなる意味での
視力も持たなかった
彼等は互いに食い合おうと
ぶつかりあい囓りあい
砂を朱に染めた
わたしは逃げるしかなかった
砂浜はひろく
海はなおのことひろく
わたしは逃げるしかなかった


自由詩 浜辺 Copyright 佐々宝砂 2005-01-25 21:21:29
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