満月に吠える、野良犬
服部 剛
夜の浜辺で一人
寂しい叫びを宇宙に放り投げる
震える声は
一枚の手紙となって、舞い上がり
静かな波の唸りの上を、舞い上がり
海の面の、
月の光の道の上を、舞い上がり
満月の微笑に吸われるように昇りゆく
抱いていたのは
「君」だったのか
「女」だったのか
わからなくなっていった瞬間に僕は
崖の上で
風に吹かれて危うく立ち
満天の星空を仰いで吠える
野良犬を垣間見る
海の面の
月の光の道の上に浮かぶ
満月の微笑よ
卑小で痩せた野良犬の僕は
永遠にあなたを乞い
闇塗りの深い海に
今夜も吠えている