指輪と石
まーつん

 薔薇の花が一輪
 掌に横たわっている

 棘だけが未だ鋭く
 チクリと私の皮を刺す

 死して尚
 痛みを与える
 美しさ

 庭仕事を終え、
 麦藁帽を脱いで
 額の汗をぬぐう私
 片方の手に包むのは、
 気まぐれに折り取った

 一輪の薔薇

 夏の陽射しが
 私の脳裏に刻むのは
 我が家の小さな庭を描いた
 光と影の陰影画

 暗い茂みの懐から
 のそりと這い出たカマキリが
 明るい世界に首を振り
 鎌をもたげる

 私は
 薔薇の香を嗅ぎながら
 それを眺める

 この世界には
 同じだけの密度を持つ
 光と闇があり、互いに拮抗しながら
 一つの円の内側を満たしている

 春、輝く命が生まれ
 晩冬の闇に、ひっそりと
 息を引き取る

 円を結ぶ
 生と死の循環は
 神の指に嵌める指輪のように
 美しい理となって
 万物の在りようを飾る

 その小さな指輪を、
 卓上に立て、縁の部分を
 コン、と弾く

 すると
 くるくる回る輪の残像が、
 夏の陽射しに煌き
 球面を描く

 やがて
 回転がやんだ時
 それは、蒼い星に
 姿を変えている

 星は転がる
 運命に押されて

 私たちが
 転がしている

 石を蹴る
 子供のように

 星は
 泣きも叫びもしないが
 足蹴にされて、薄汚れていく

 だから時々、
 神が取り上げて
 綺麗に汚れをふき取る

 いつか、私たちが
 本当の意味で大人になったなら
 もっと、優しい転がし方に
 気がつくのだろうか

 私は
 折り取った薔薇の死骸を
 卓の上に置く

 私は
 この花を殺し、巡る輪を壊し
 散るには早すぎる命を
 戯れに奪った


 石を蹴る
 子供のような
 無邪気さで




                                  2014.7.30


自由詩 指輪と石 Copyright まーつん 2014-07-30 11:42:48
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