滲んだ絵画
凍月



その絵画は、
曰く付きだった

とある画家の
最後の傑作であった

まず、その絵のジャンルが分からない
人物画なのか肖像画なのか
風景画なのか何なのか

ただ、正確に言うと
それが何の絵なのかも分からないのだ

そこに絵があっても
それがどんな絵なのか
判別出来ないのだ


僕は気になって気になって
その画家の美術館を訪ねた
他の絵には目もくれず
ただ、その絵を求めて歩いた

ある部屋から
泣き声が聞こえてきた
何だろうと思い
そこに向かう

その部屋には
一枚の立派な額縁と
その中にある絵と
それを見て泣いている人々がいた

すると僕の足は自然に動き
吸い込まれるように絵へと向かった
そして分かった
何故、この絵がどんな絵か
誰も分からないのかが

僕の二つの目から
勝手に涙が溢れ出すのだ
一歩絵へと踏み出すたびに
溢れる涙も増して

泉のごとく溢れる涙に
霞んで前が見えないのだ


ああ……そういえば何時振りに
ここまで泣いただろうか…



そしてその
涙を止まらなくする絵の題は

《霞んで見えない絵》






自由詩 滲んだ絵画 Copyright 凍月 2014-07-29 22:00:09
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