王国記 Ⅰ
木立 悟





はざまの多い森の端を
光の川が流れている
刃物の影が
水草にゆらめく


増えてゆくばかりの光の束を持ち
水にも土にも放れずに居る子
重さもなく熱もなく
ただ何も見えなくなる


洪水の痕のほうから
ずっと吼え声が聞こえている
生まれては消える泡の影が
無数の生きもののように水底に積もる


窓硝子に描かれた鳥の絵が
幾羽も幾羽もはばたいている
いつのまにか径には
午後が流れている


光が辿る先を
曇もまた辿る
祓いまたたき
頭上に何も描くことなく


径に面した扉をあけると
家々の入口はすべて鏡で
誰もいない午後を映している
止まない雨
止まない浪の音を映している


城壁は砕け
水はあふれ
迷い子は生まれ
輪を描きながら散ってゆく


水に裂かれた森のむこうに
けだものの羽は降りてくる
ひしゃげた鉄が
聞こえない喧騒のなか震えつづける


光の束を抱えた子が
光の川辺に腰をおろし
何も見えぬまま聴いている
消えた国の門を聴いている























自由詩 王国記 Ⅰ Copyright 木立 悟 2014-07-27 02:29:57
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