やさしい音楽しかきけないときがある
と二度書いて消した
書けば書くほどに
それでいったいなんだっていうんだろうという気がしてならなかった
人間が正しくないセイブツで、言葉と表情を持ってしまってかわいそうで、
好きだ
わたしにはたまたま
手に指が十本ある
わたしはこれを
鍵盤の上において音楽を生み出すことにも使えるし
誰かの首に巻きつけて終わりにすることにも使えるけれど
今もさっきもこないだも
ぎゅっと十本つむったままで
心臓をこつこつ言わせていた

あなたに料理を作ることもできる
あなたをくすぐることもできる
あなたの涙を包むこともできる
あなたと手を繋ぐこともできる


あなたを捕まえておくことも
あなたを突き放すこともできる


ぬるい音が耳に詰まっても
悲しみが肺に刺さっても
やさしい音楽しかきけないときがある
やさしい音楽しかきけないときがある