夫は犬なので
比良末潮里



尻尾
普段は隠している

尻尾のことが
気になります

眉を上げて
小首を傾げて
舌を出す仕草

大変
大変…だわ…

私の夫は
実は
犬なので
8年前
拾った犬なので、

やっと
人間界に慣れた矢先

朝7時
たまたま出勤時間に
遭遇した
お散歩中の
イングリッシュコーギー

相手も
こちらを
見抜いて
目を合わせてくるのです

耳がピクリと
目は見開かれ
もう
尻尾ったら
ズボンを破って
こちらも
振っている

「お宅のご主人…」
ご近所の奥様たちの
あの仰天した顔が
一気に私の頭を過ぎります

そして
好奇の目が降り注がれる…
あゝ!
なんて
恥ずかしい。

愛おしい彼を
まるで見世物か何かのように
指をさされて
噂をされて

どこで
ききつけたか
保健所の職員
なる者に
目をつけられたなら
もはや…

それでなくとも
野獣と添い遂げるなんて
「ディズニー映画じゃないのだから…」

クスクス笑って
町会長の奥方連中が…

あゝ!

あなた!
ねえ!
あなた!
せめて、
その尻尾をしまって頂戴!

あっちの
柴犬はどうでも
いいから

挨拶しなくちゃ
って


お尻の匂い嗅ぎに
行っちゃダメよ!

ダメよ
あなた!

私たち
永遠の愛を誓ったのよ!
一生犬には
戻りませんて
あなた
言ったじゃない。


自由詩 夫は犬なので Copyright 比良末潮里 2014-07-24 20:42:40
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