ばけずもの
DAICHI

蛇口は歪に世界を映す。
俺の右頬と右頬と、右頬を、全部違った面に映す。
映し出す。
それがなんとも歪んでいて、
気持ち悪くて、
歪んでいて、
それゆえ真に迫っていて、
気持ち悪くて。
太い柱で繋がった、
端正な銀の球体に。
別々に映る、
俺の同じ部位。

(見えているぞ、見逃さないぞ、見抜いているぞ!)

物を見られない銀の目玉は、
代わりに俺に俺を見せる。
ありのままに、歪に、真実の通りに、映るがままに。
真一文字のつもりでも、
醜く笑ったような口。
今にも折れてしまいそうな腰。
動いているのが不可解な形相。
三日月形の平行な双眸、
動きに応じて流動する身体。

それは化け物、
というには俺に似すぎていて。

一皮剥いて裏返せばほら!
お前は初めからそういう生き物だったのだ!
化け物め!
違う!
非・化け物め!
化け物ですらない醜いお前!
お前はお前のまま醜く歪んだお前!
嘘を吐くための口と口と口と口で出来たお前!
何も映さない目と目と目とを使い分けるお前!
言い訳の時は口! 粗探しは目! 秘密を狙う耳!
全身をそのために作り変えて! 信じ込んで!
信仰を知らぬ者! 顔の無い怪物!
千変の化け物!
化け物! 化け物ですらない!
醜い生き物!

(俺は見ているぞ、醜いお前!)
(醜いもの!)
(醜いものめ!)

暴き立てる声に、軽く嘔吐く。
いくつもの目を持つ端正な形が、本当の俺を映して喚いている。
俺はそいつを覆い隠して、
軽く捻って、
顔を洗って、
水に流して、
また戻す。

面白くもない日曜の朝。
蛇口の向こうで、俺が唇を捲り上げている。


自由詩 ばけずもの Copyright DAICHI 2014-07-23 21:49:04
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