「かえす」
小夜
ひらいてしまったてのひらに
はじまりは舞い込んで、やがてにじんでいく
窓枠を引いて外と内を分けて
でていかないよと言ってみても
手に入れることは失くすことだから
いつでもきちんと立てるように
大切なものは持たないことにした
失くしていいものだけ集めたつもりが
それすら手放せず重たくなった
でも違った
手に入れるんじゃなくて、お借りする
失くすんじゃなくて、お返しする
そうしてめぐりながら変容していく
だからもう会えない人のために
その人のいない世界へと
歩いていくことだってできる
あなたにいつかお返しする
あなたをいつかお返しする
覚えてもいない思い出が
高く抜けた空から
髪に背中に降ってくる
いつかだれかがわたしの肩を抱きしめた
その跡をたどるように
やわらかな名残りが降り積もる
振り返ることすらできない、
遠い、遠いところ
いつか終わるすべてのはじまりも
ひとつひとつ撫ぜていく
そしていつかあなたのいない世界で
きちんとお返しする