たとえるなら
岸かの子

たとえるならば
    白のキャンバス
    ナイフでは出せない
    色もまばらな使い古しの筆
    なのに、赤だけが多く滲む油絵具

たとえるならば
    夢を追う事さえも
    見ることも
    塞ぎ込まれた純情
    掴めない夢はもう無駄だと知った時

たとえるならば
    通勤電車のなか
    揺られて帰る君を想う
    その時は少しだけ女へ戻る
    顔も知らないのに

たとえるならば
    今、この時に
    生きているという実感
    ありがとうと言える言葉たちの
    ありがたみが分かる様になった

たとえてみても分からないことばかりだけど
たとえるならば
恋をしているのかもしれない


自由詩 たとえるなら Copyright 岸かの子 2014-07-15 22:01:53
notebook Home