雑用
DAICHI

割れないように電球を回す。

 妄想 昔好きだった人 嫉妬 行き違い 冷めた晩御飯

黒板を爪で掻いたような音がして、肩が竦む。

 薄くなる財布 内緒のお金 本当は嫌いなチョコレート

撫でるより少し強く、電球を摘む。

 外出が好きだということ 贅沢は嫌いじゃないこと

回す加減が分からなくて、数回、空回す。

 許していない言葉 気づいている嘘 ぬくもりのこと

音もなく取れたそれを渡し、渡される。

 あんまり乗り気じゃない旅行の計画 笑顔の絶えない関係

右か左か迷って回して、嫌な音のするほうを選ぶ。

 察して合わせられる程度の話 慣れて上手に盛り上げられる会話

きしきし、きしきし。

 きしきし きしきし

    シチッ

チキキッ、と、一瞬余分に回しそうになって、指が避ける。

 短い心配の言葉 短い確認の言葉

これ以上回らないことを確かめて、指をはなす。

 茜色より少し明るい しかしそろそろ暗い部屋

木の丸椅子を右足から降りて、明かりから垂れた紐を引く。

 がちんっ ぶつんっ

下睫毛の向こうに見える、君の影。

 ちっ ちっ チカッ

斜め下で明滅する、君の顔。

 許していないたくさんのこと 忘れていないいくつものこと

色づいた唇。光彩を帯びた瞳。柔らかな黒い髪。

 失いたくない ということ

唐突に抱き寄せる。驚いた顔は、横にあって見えない。

 話さなきゃいけないこと 焦燥 本当は信じていないこと

ふう、とため息がして、小さな手が、頭を抱えるように、撫でる。

 六畳間の僕たち


自由詩 雑用 Copyright DAICHI 2014-07-05 23:36:11
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