死ぬまで
アンドリュウ

ヒィ.ヒィ・ヒィ
と短い喘ぎ声をあげると
まだ僅かに動く前足を震わせながら
今はもう土塊と化した後肢を引き摺り
必死に転げるように小屋から這い出て来る
排せつ物を小屋でしないという
犬本来の本能がそうさせるのか

その酷く臭い糞尿でさえ
彼女の生の証の様に思われて
日頃なら目を背ける五郎も
拭き取りシートで丁寧に拭った
新しいオムツを履かせて
床に敷いていたシートも換えて
紙屑のように軽くなった
彼女を小屋の中に戻す
その間も彼女の眼は
カッと開かれたまま
何かを凝視していた

もうすぐ逝ってしまうのだな
そんな言葉が五郎の心に
わいて出た

置き去りにされてしまうのは
自分かもしれない
そんな不安が
五郎の心を過ぎった

出来れば
行かないでくれ!
そう叫びながら
彼女にすがって号泣したかった

けれどそれが出来ない
自分がそこにいた
居た堪れなくなった五郎は
寝室に戻った

布団の中で
息を顰めて泣いた

そんな事を繰り返すうちに
彼女はただの土塊に
変わった

それが別れだった


自由詩 死ぬまで Copyright アンドリュウ 2014-07-05 04:38:19
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