ドアの後ろ
凍月



ドアの後ろに

ドアの後ろから
工場の駆動音が聞こえた
ドアの後ろを
醜い生き物が這う
美しいものは這わない
それが決まり
音で分かる
綺麗な音は綺麗なものから
濁った音は汚いものから
ドアの後ろから
僕の命を狙う
混沌の獣が数百匹
融け混ざり合いながら
死滅と再生を繰り返す
もしドアを開けたなら
僕も混沌の渦に癒着して
グロテスクなそれの手足の一部に成り下がる
ドアの外には別世界
鼠色とにび色と紺色と黄土色と黒と
赤の焦げた色組織液の黄色吐瀉物と内蔵の混ぜこぜの色
そんなカラーの
吐き気が吐き気を引き起こす世界

ドアの後ろには何がある?
何がいる?何処なんだ?
ドアの後ろに誰かいるのか?
でも僕には出来ない
僕は分からない
僕はこのドアを開ける事だけは絶対に、出来ない

ドアの後ろ
ドアの後ろには花畑
ありとあらゆる美しい花々
ドアの後ろには賑やかな街が
笑いは絶えない楽しみは潰えない
ドアの後ろには懐かしい公園
遊具も全てあの頃のまま
ドアの後ろには白銀の世界
煌めく氷雪、氷柱の音色
ドアの後ろには熱帯雨林
極彩色の生物の楽園
ドアの後ろ
ドアの後ろには天の国
天使の饗宴が幕を開ける…
ドアの後ろには何がある?
そんな世界なんて
あるわけがない

ドアの後ろには何がある?
何がいる?何処なんだ?
ドアの後ろに誰かいるのか?
でも僕には出来ない
僕は分からない
僕はこのドアを開ける事だけは絶対に、出来ない


ドアの後ろ
ドアの後ろには花畑
よくよく見ると
人の肉さえ食いちぎる原始昆虫や蛆や蠅や何やらが
花々の下で蠢いている

ドアの後ろには賑やかな街が
争いは絶えない絶望だけが潰えない
崩れだしたら止まらない
シャッターなど何の意味も効果もない

ドアの後ろには懐かしい公園
があった場所は銀行になり
昨日強盗が入ったらしい
三人の人質が死んだらしい

ドアの後ろには白銀の世界
掘り返してみれば凍死体
視界の端から段々と
赤い鮮血に染まってゆく

ドアの後ろには熱帯雨林
極彩色の生物の残骸
焦げた木々と細い骨たち
緑に輝いていた過去は消えて
業火が今も吠えている

ドアの後ろ
ドアの後ろには天の国
天使の羽がはらりと落ちて
真っ黒な翼が風を切る
七つの喇叭は鳴り響き
地上は砕けて裂けて滅びゆく……


ドアの後ろ


ドアの後ろには何がある?




自由詩 ドアの後ろ Copyright 凍月 2014-07-04 22:18:47
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