草案と次の草案と詩と幸せ
ヨルノテガム




 虹という虫が
 階段の登り下りをして
 小さい花や小さい花を咲かし揺らす風の足音
 少しの涙や水面に映す幻影を

 髪を撫でる青い空や
 うつ向いた月と話す今日の
 誰かと誰かは
 少しの涙と少しの幸せを入れ替える
 優しく気まぐれな極端なあれこれ

 汗をかいた鼻に触れる
 花首を折った少年の死のような匂い
 不確かな老婆の妊娠、と想い出
 目を閉じた少女の人形、眠る花束
 海を渡った男の靴と鞄とただの動物の皮
 歩く虫、歩く虫の抜け殻、歩く虫の飛び立った跡、
 虹という

 果実が毎年、魔法のように生まれ落ち
 転がる過ぎゆく、私という幻影が
 立ち止まり、暑がり寒がり
 羽を持ち、羽をもぐ、綺麗に転がり傷んでいる
 色づいた私は滅びゆく間に
 虹の道に浮かぶ



 *


 虹という虫が
 階段の登り降りを
 小さい花やまた小さい花を咲かし
 揺らす風を近く感じている
 少しの涙が水面に落ち
 その主の影をあやふやにぼかす

 髪を撫でる青い空は低く優しい
 うつむいて話しかけてくる月に
 今日のことをそっと打ち明ける
 誰かとだれかは
 少しずつ入れ替わっているのサ
 極端に思うかもしれないけどね

 汗をかいた鼻先にふっと触れるように
 気づいたんだ
 花首を折ってしまった少年は死を選び
 死にかけた老婆が新たな生命を爆発させようとした
 目を閉じて眠った少女はそのまま起きもせず
 死にも老いもしなかった、花束は枯れても。
 海を渡った頑強な男は砂浜に
 靴と鞄を残して、魚になって消えた
 歩く虫もまた、抜け殻を残し、最後に飛び立った跡、
 虹という虫になり

 美しい果実がみずみずしく
 時を再び、魔法のように生まれ、生まれ落ち
 転がり過ぎゆくのを私は見ている
 私は木の前で立ち止まり
 暑がったり寒がったりした季節をふり返る
 私の中でも何かは膨らみ生まれ羽を持ち
 やがて羽はもがれ落ち、転がり傷みくさるだろう
 私はその生死が訪れるごとに
 行き先は遠く知れない虹の一片を幻影する


 *


 ふと、立ち止まらせるものがある

 特にシンプルな、簡素であるアナタという作品を通して

 私は宙空をまるで七色十色の虹の中を渡るがごとく

 向こうへ辿り着く道を知る

 歩んできたものへの感謝が訪れ、

 数々の無駄なものが寄り添い不思議な力となって

 こちらへ舞い降り舞い上がってくる、瞬間がある

 私は背景なのか、私は透明なのか

 何の集積であろうか

 青空へ私の座るイスが浮かんでいく

 そこへ向かう、湿った命は輝く











自由詩 草案と次の草案と詩と幸せ Copyright ヨルノテガム 2014-07-03 05:56:05
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