子守唄
木立 悟
何度も何度も触れてくるのに
けして苦しくなることのない
数え切れぬ手 ふたつの手
近づき 重なり
離れゆく手
離れ 離れて
響きわたる手
さくさくと向かい風
にじむ水飛び越え 飛び越え
道端に並ぶ
雪の犬の目
わしわしと掴みかかる
光と爪を肩にのせ
背中を押され 歩きつづける
鉄の家々のはざまの道
水が響く
鉄が響く
眠れない人のすぐそばで
眠りたいのに眠れない子が
子守唄をほしがっている
歌えないでいるうちに
子はいつしか眠ってしまう
眠れない人は寝顔を見つめ
いつ子守唄を歌えるのか
どんな子守唄を歌えるのかを思い
またひとつふたつと眠れなくなる
どこにも行けず
雪の犬は哭いている
自らを咬み血を流し
雪の犬は吼えている
空に並ぶ氷の鳥が
氷の雛を抱きしめるため
犬の涙に降りてくる
とどろきのなか
はばたきのなか
子守唄を歌えぬ人は
夜明けの光に眠れずに
子守唄を知らぬまま眠る子の
ふたつの手のひらに触れつづける
上下する冬のかけらを聴きながら
上下する手のひらに触れつづける