屋上スタイル
千月 話子
連立する高層住宅の緑は孤独
メタリックな金魚は
雨の日に口を開けて上昇するんだ
施錠された鍵は傷ついている
何度も何度も何度も
屋上に取り付けられたばかりに
また傷ついている
無機質を装って
目の前で空気というものは
一体どれだけあるというのだろう
朦朧とする意識が無臭を探す
解けたチェーンは
数回ほど引っ張られていた
ご親切な何かよ
取り敢えず「ありがとう」
と 瞼を伏せて
受け入れた景色が体の周りを
ぐるぐると取り囲むのを感じていたんだ
腕は鳥のように広げないでおこう
風が巻き取った重力で
コンクリート 屋上 床
世界から浮かび上がるまで
雲が左へ流れる速度 が違う
髪が左へ流れる速度 が違う
空中で赤い風船が風をじらして
ふらふらと意地を張って いる
糸を離した幼子の想い 想い
重い おもり 吊るして
それは、可愛さと怖さの表裏一体
閉じ込められた異質の空気が
目の前で我がままを爆発させて
降り注ぐ風を汚してしまわぬように
耳を塞いで静かに祈ろう
屋上の清涼を感じているんだ
渦巻きよ 私を弄ぶな
濃い影よ 私を呼ぶな
貯水槽の少女よ
鉄柵の男よ
手摺りを歩く夫人よ
「さようなら・・・・・・・」
私の緑は屋上で繁殖する
ここがいつも晴れなら いいのに