バースデーソング
カワグチタケシ

1.
ふたりが出会うしばらく前から
世界は始まっていた

ナイトフライト
夜の音楽

夜明けのおそい
鉄色の街へ
翼に乗って君に会いに行く
雪解け水を湛えた深い森の
ビリジアン色を瞳に映した
ひとりの少女の影を追いかけて
ジェット機は空をかける

そしてふたりが出会ったあとも
しばらく世界は続いていく

2.
今日も見知らぬ誰かの誕生日
惑星は公転軌道上の
去年と同じ場所に戻ってくる
ハッピーバースデー

僕らの誕生日には
世界中の鳩たちが
オリーブの枝をくわえて
朝日を連れてくる

おめでとう 誰か
おめでとう みんな
おめでとう 少女兵士だった
おめでとう 左利きの恋人
おめでとう 僕の好きな人
おめでとう あるいは
おめでとう 一年後の僕ら

治安部隊と市民の衝突は回避された
恋人と抱き合い くちづけを交わし
次の朝には行き先も告げずに旅立つ
迷彩服の兵士たち

道路にはガラスの破片が散乱し
太陽の光を乱反射している

3.
小さな君の
小さな声より
小さな僕の声でも
かならず届くものがある

小さなベルのように
笑う君の声が
回路を経由せずに
直接空気を振動させて
すぐちかくで鳴る
朝の部屋

誰もいない砂浜に
静かに波が打ち寄せている

4.
僕の誕生日に欠けた月が再び満ちて
惑星は君の誕生日を迎える
日付変更線から順番に西へ
南に向いて立つ君の左側から右側へ
移ろう光に包まれる瞬間にシャッターを切り
その光を
君の明るい表情を
まばたきの内部に固定する

一定の条件をセットして
僕らは育てる
いつかつぼみをつけ
やがてほころぶ一輪の花を
永遠のすこし手前まで
二十年間枯らさぬように

いくつもの正解が光を放ち
燃えつきる星のうえで

 


自由詩 バースデーソング Copyright カワグチタケシ 2014-06-21 01:59:42
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