残業
葉leaf
僕という泉の湧き水の量は一定のはずで
僕は泉の水をちょうど飲み干すことで毎日を生きているが
それ以上の水が必要とされるとき
仕事の熱量が僕をさらに引き延ばしていき
もはや水ではなく自らの乾いた青空のようなもの
そういう遠くで燃えているものに引き連れられて
残業は硬い喜びの芽とともに始まる
仕事は自分のプライドと存在を賭けたゲームだ
生きることと死ぬことの魅惑に最も近く
勝つことも負けることも僕を深く穿つ依存性のゲームだ
一人ずつ退社していくのを優越感のまなざしで見送る
社会は仕事が織りなす巨大な細胞で
その細胞の一つの器官として肥大していく増長の快楽に浸り
会社と自分との契約のつじつまが新しく噛み合う音を聞く
契約など秒の数だけ存在しては死んでいく映像のようなもの
新しい映像の中で社会としっかり手をつないだ僕は
仕事が真に自分の所有物となったことに気付く
仕事を共有から個人所有に戻すには残業の手続きが必要だ
自分だけの仕事を自分だけで行う独占によって
組織の網と輪から外れた無軌道の無方向
やがて翌朝になれば
空へと放った疲労が都合よく落ちてきて直撃する
ゲームの開始と共に空に蹴り上げた疲労が直撃して僕を地に倒す
僕はやはり有限な泉であって
泉が枯れたあとも幻想の水を飲み続ける美しい残業は
泉に亀裂を走らせ水源を汚染し
その喜びの代償に水を通じた自己とのコミュニケーションを破壊する