残業
葉leaf




僕という泉の湧き水の量は一定のはずで
僕は泉の水をちょうど飲み干すことで毎日を生きているが
それ以上の水が必要とされるとき
仕事の熱量が僕をさらに引き延ばしていき
もはや水ではなく自らの乾いた青空のようなもの
そういう遠くで燃えているものに引き連れられて
残業は硬い喜びの芽とともに始まる
仕事は自分のプライドと存在を賭けたゲームだ
生きることと死ぬことの魅惑に最も近く
勝つことも負けることも僕を深く穿つ依存性のゲームだ
一人ずつ退社していくのを優越感のまなざしで見送る
社会は仕事が織りなす巨大な細胞で
その細胞の一つの器官として肥大していく増長の快楽に浸り
会社と自分との契約のつじつまが新しく噛み合う音を聞く
契約など秒の数だけ存在しては死んでいく映像のようなもの
新しい映像の中で社会としっかり手をつないだ僕は
仕事が真に自分の所有物となったことに気付く
仕事を共有から個人所有に戻すには残業の手続きが必要だ
自分だけの仕事を自分だけで行う独占によって
組織の網と輪から外れた無軌道の無方向
やがて翌朝になれば
空へと放った疲労が都合よく落ちてきて直撃する
ゲームの開始と共に空に蹴り上げた疲労が直撃して僕を地に倒す
僕はやはり有限な泉であって
泉が枯れたあとも幻想の水を飲み続ける美しい残業は
泉に亀裂を走らせ水源を汚染し
その喜びの代償に水を通じた自己とのコミュニケーションを破壊する


自由詩 残業 Copyright 葉leaf 2014-06-20 06:40:41
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