かすかな声に、いつも耳を傾ける
ういち

 少女は少年に手紙を出した。
 少女はポストの中に手紙を入れた。

 手違いで海を渡った手紙は、雨の湿気の清潔な部分を少しづつ、選別しながら含みはじめた。
 シベリアの炭鉱は、その手紙を炭の中に埋めた。
そして、その手紙はクマネズミによって破られ、リンドウに根から吸収された。
 その次には、リンドウは摘み取られ、コデマリやラッパスイセンやらと一緒に、香水の試薬に使われた。
 香水の香りは死の匂い。
 アゲハチョウを一匹射殺した。 
 射殺された蝶の死骸は、丁寧に剥製にされて骨董品屋の中に安置される。
 

 ある秋の気が狂ってしまいそうなくらい、空が美しい日。
 かすかに残された少女の思いの欠片を、少年は蝶の羽の燐粉の中に見つける。

 しかし、少女はその時他の少年のことを好きになって、また手紙を出している。
 そして、少年は自分の見間違いだと思い、そんな事をあまり気にもしなかった。


自由詩 かすかな声に、いつも耳を傾ける Copyright ういち 2005-01-23 04:19:34
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