この小さな地上で出会う全ての人たちへ
hahen

にんげんは雨が降って来たときだけ
空を見上げるようになった
ぼくたちの知らないうちに
星が落ちるよ、
からからに乾いて
倦んだ陽だまりの中へ

ビバルディは四季の移り変わりに
音楽の調和を見たのでしょうか
あなたの中心に横たわる砂漠には
絶えず一つの小節があり
熱され、冷やされ、
柔らかく砕けていく
乾いていますね、
乞うことを忘れた唇だけが
こわばっていく

ニーチェは獅子の次に駱駝を尊び
獅子よりも小児を愛した
あなたはどこにでも並んでいる
ナボコフのロリータを
手に取れないまま
パガニーニを演奏する
たおやかな頬を寄せて
駱駝になろうとするぼくをあやすため
弓を弾く

みんなみんな
雨を待ってる
分割和音のさざめきを
赤く、青く
弾ける火の粉を

空を見てください
空を、見てください
どこまでも果てのない
中空の、
定義しきれない座標位置に
あなただった者たちの骸がある
今、あなたではなくなった
あなた以外の実存がそこにある
強度の高いハイデッガー
あるいは少し普遍性を持たせてヤスパース
自性と対象との相互関係の狭間に
炎は揺らめいている
どうしてデリダは作家にならなかったんだろう
誰にも見えない場所に炎を灯せる人
2011年、カミュの遺稿が見つかって
微小な文字の集まって出来た雲が
遥か彼方の海原を旅して
誰かの砂漠に星が流れる

そしてあなたが
誰でもないあなたが
最後に空を見上げる
冴えわたる宵闇の向こうから
星が落ちて
大地にクレーターを穿ち
あらゆる書物が砂塵となって崩れた
この小さな地上のどこかで
開きっぱなしの頁、
誰が著して、何が書かれていたのか
忘れ去られていくままに
目を閉じて窓を閉めた
この小さな地上のどこかで


自由詩 この小さな地上で出会う全ての人たちへ Copyright hahen 2014-06-16 08:17:37
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