追憶の向こう側
ウデラコウ

過ぎ去った過去を 懐かしく思う暇もなく
夜風がただ 
冷たい頃が 好きだった

今はもう
空は夏を覚え始めたというのに

今宵の風は
あの時のように
肌を優しく刺して

僕の 弱いところだけ 剥き出しにする

こうして
世界から 抜け落ちて
君がいた あの頃まで
戻れるのなら

今も そこで 君が

あの日のまま

笑っているのなら

この風が 止む前に
いっそ 幕を下ろしてみようかと 思うけど

君がふれた
この右手にはまだ

君の感触が 鮮やかに残りすぎていて

僕は
君という幻に 取り残されたまま

こんな時にだけ
ひどく 時は 緩慢で

誰か ゆさぶり戻して欲しいと思うけど

君の好きだった
あの 懐かしい音と
この 土臭い風と
僕の 身体が

どうしても 僕をここに押さえつけて
動けない

いつか 君はまた 笑ってくれるのだろうか

最後にみた 君の泣き顔が

僕を 酷く曇らせ そして酷く 君へと縛り付けて

さようならというには
まだ時は短く 距離は遠すぎて

今宵の風が
君の横を通り過ぎるのなら
どうか

僕は 君の行く先が
全て 輝かしいものになってほしいと

それだけを願うから どうか

僕ではない 違う誰かには

また

心から 笑って

花よりも美しく 儚くも消して消えないその強さで




笑って


自由詩 追憶の向こう側 Copyright ウデラコウ 2014-06-07 20:59:11
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