イカに捧げる詩
カニさいとう

イカは弱い
病み上がりだ
足が細く
くにゃくにゃしている
しかしイカには
美学がある
イカは
タフな生き方にこだわる
エビ・カニ類や小魚といった
獲物にまとわりついて
じわりじわりと
体力を奪い取っていく
ストロングスタイルなのだ
しかし悲しいかな
イカは弱い
じわりじわりと
先に弱っていくのは
イカだ
そんなイカだから
お嬢さんみたいなエビ・カニ類にさえ
バカにされる
しかし見るがいい
バカにして
イカのくにゃくにゃした足なんか
あしらってるうちに
いつのまにか消耗して
思うがままにされているのは
お嬢さんのほうだ
そうだ
相手の慢心をさそい一瞬の隙を突く
風車の理論
それがイカだ
ところで
きみはイカスミスパゲティを
知っているか
知っているのか
食べたことはあるのかね
うまいものだ
真っ黒で磯臭い体液を
麺類にあびせかけたものだ
それは
イカの目くらましだ
イカスミスパゲティは欺瞞の味だ
欺瞞そのものだ
俺はいま
イカのさしみで
いっぱいやっているが
イカのさしみは空虚なものだ
このうつろなる容れ物に
かつて欺瞞がつまっていたという
こうしているうちにも
海の上では
イカ釣り漁船がつぎつぎに
このものを
釣り上げている
大量消費
ああ
しかしわれわれは
いったい何を消費しているのだろう
イカよ
母なる海に
己の美学を打ち立てよ
なにがなんだかわからないけれど
俺は
一リットルの紙パック入り焼酎を飲んでいる


自由詩 イカに捧げる詩 Copyright カニさいとう 2014-06-05 13:22:12
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