町のお米屋さん
イナエ
もう二十年も昔になるだろうか
「政府の備蓄米が放出されているらしい」と
うわさが流れていたころ
「あんたの家のお米ぐらいはいつでも確保しておくからね」
そういった町の米屋さん
近くにスーパーが出来て
日常食品を自転車で買いに行くようになっても
お米は少々高くても仁義を守って
町の米屋さんから仕入れていた
お米やさんに
薬剤師の資格をもったお嫁さんが来て
薬局も開いたころには
朝 仕事に出かけるサラリーマンが
栄養ドリンクを立ち飲みしていた
お米屋さんは
「薬局を開いて 店の売り上げも少しは良くなった」と
喜んでいたのだが
バス停近くにドラッグストアーが開店し…
お米屋さんの薬局はだんだん暗くなって
明るい店に足が向き
お米一キロ三十円の差が出来たころから
三度に一度はスーパーで仕入れるようになって
それもやがて逆転し
次第に遠ざかっていった足
久し振りに来てみれば
冷たいシャッターに拒絶されてしまった