僕らが首を吊る理由 / 鎖骨
クナリ

■僕らが首を吊る理由■

産まれ落ちてからしばらくして
自分の体を初めて顧みた時
最初に気付いたのは
自分の手のあまりの小ささだった

どうしていいか分からないまま
少しずつ何かをするたびに
間違えて
つまづいて
傷つけて
後退した

そのたびに僕を助けてくれたのは
いつだって女の人だった
再生も
女嫌いも
僕の心のありようが変わった時
いつも女の人が傍にいた

女には男が抱けるのに
男には女が 本当には抱けない気がする

際限の無い沼の底へ
諦観の薄笑いを浮かべながら潜って行く僕を
よかったらこっちへおいでよ、と
そっちよりは悪くないよ、と
自分も膝まで沼につかりながら
僕とは真逆の笑い方をしている人に
出会えたことは
偶然だったのだろうか

ようやく自分の手が
少し大きくなったから
僕を助けてくれた人を助けようと
あなたを見つめてみたなら
目を背けたくなるような傷の刻まれたあなたの背中
目を背けたくなるような大鎌から逃げようともしない視線

こんなにも救いたいのに
手を差し出すことすらできないほどの
巨大な断絶を生み出していたのは
僕の
性別という
本質たる性質だった

何を言って
何を渡して
どこへ導こうとしても
異性である限り無理があり
異性である限り越えられない

自分よりもずっと価値のある人を
ずっとつまらない人間である僕なりに
どんなに救いたいと願っても
男である限り
あなたの望みには到達できない
女でなければ
あなたを分かってあげられない

乗り越えようの無い
本質そのものの性質
今日この性器を切り取っても
到達しようのない無情

無情!
これが無情!
産まれ方を間違えていたという
無情!

あがく自由さえもない
叫んでしまえば壊してしまう
失うくらいなら
傷つき合いながら見つめている

何もできない
何も言えない
あなたがくれたものを
僕には返すことができない
本当に本当の
もしかしたら一生のうちに気付くことさえなかったような
本質からの
願いを
衝動を
僕の本質こそが
無力化する

なぜ産まれてきて
なぜ出会ったのか

あなたには意味がある
僕にはないじゃないか

たとえばこんな時に僕らは
この細い首を吊るのだろう

あなたには届かない
この僕の手で

また少し大きくなった
この僕の手で。





■鎖骨■
あなたの鎖骨の中に住みたい
トンネルのようになった骨の中
あなたの声がよく聞こえる
あなたの鼓動がよく聞こえる

トンネルの中にいるのだから
あなたが誰を見ているのかは
分からない
いつまでもいつまでも
分からない

やがて鼓動が終わるまで

あなたの最後の一拍で
この体が
震えるまで。



自由詩 僕らが首を吊る理由 / 鎖骨 Copyright クナリ 2014-06-03 10:58:22
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