畦道にて
山部 佳

犬と歩いていた畦道
蓮華草の洪水、うららかな風
晩春の自然は生命を礼賛していた

突然、犬が強く引っ張る
そして、嬉しそうに吠える
畦道の行く手に
冬眠から覚めた蝮が横たわって
ぬらぬらと陽光を浴びている

そう言えば、こいつは蛇が好きだったな
いや、野鼠も好きだ
取りあえず、ちょっと道を開けてもらおうか

私は小石を拾い上げ
ひょいと…なんの気なしに
驚いて、叢にでも滑り込んでくれたら、と
軽い気持ちで投げた

何の音もしなかった
捩れた鎌首をあげては倒れ
虚空に向かって威嚇し、また倒れ
犬は大喜びで吠え立て
やがて、蝮は動かなくなった

私は蛇類が大嫌いだが
グロテスクな腹を曝して
細い畦道の真ん中に静止した
蝮は淋しかった

私と犬は、来た道を引き返した
田んぼの土手に座って
死んだ蝮の横たわっている畦道を見下ろした
そして、ため息をついた
犬が私の顔を舐めた

ほどなく森の木の上から
3羽の鴉が飛来し
賑やかに蝮をつつきまわして
咥えて飛び去った

私は、掌に犬の感触を確認しながら
静まって、再び長閑になった
蓮華草の海を眺め
志賀直哉の小説を思い出していた


自由詩 畦道にて Copyright 山部 佳 2014-06-02 20:29:13
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