小詩集「平日の朝の小さな映画館」
バンブーブンバ
1.
「理解が世界というのなら、あまりに世界は小さい」
ブルゾンかぶって 青い瞳の彼は言う
男の人ってみんなそう
理解さえ信じてないもん わたしは
それにしても
画面いっぱいに青い瞳
きれい
2.
平日の朝の小さな映画館がすき
トレーラーで生活している若夫婦
朝ごはんも セックスも
貧しさに スクリーンに
映えてるし
「映画」の二文字
なんか ね
「写真」はまだマシ
カレも嘘つき だったから
わかりすぎ
かわいい
3.
家具のない部屋
真っ白なワンルーム
あるのは 本 本 本
やはりどうしようもなく 座りたくなって
ヘッセ・エリオット・ヘミングウェイと積み上げて
座った
「ファイン」
だって
4.
斜向かいのおじさん
泣いてるの?
スーツなんだ
こんな貧しい家族に限って不幸がサクリなんだよ
映画でしょ?
少し怒ってるくらい わたしは
そうね
涙するのも怒るのも
たぶん おんなじ
5.
ヘミングウェイの好きな不倫相手と
余命幾ばくもない若妻とが
波止場の瓦礫でチーク なんか
うん でもダンスホールよりかは
「美しさは現実にあるんじゃなくて夢想にある」
なんてカレ 言ってた かな
やっぱり かわいい
いやみじゃなくて
6.
ひとり映画館を後にして
シースルーエレベーター
街は るるると大きくなって
隣の建物
プールに妊婦 マタニティダンス
青い揺らめき
青い瞳
青い空
ああ なんか
おなかすいた