通勤
葉leaf
毎朝電車に乗ると
犬も猫も狸もライオンも
色んな動物が一緒に乗ってきます
僕はさしずめ犬といったところ
動物たちは黙ったまま座席に座って
それぞれのしぐさと毛色とまなざしで
電車を万華鏡みたいにします
さてさて、この美しい万華鏡を降りますと
動物の種類は少しずつ減っていき
遂に僕の会社の前では犬と猫だけになります
すると決まって何かがすとんと落ちるのです
僕たちに翼はいらないしたてがみもいらない
万華鏡の中で他の動物と張り合って用意した
偽物の毛皮や角、そういうものがすとんと落ちる
僕たちは優秀で純粋な犬と猫
そしてさらにエレベーターで自分の課に行きます
するとそこでも何かがすとんと落ちる
同じ犬でもどんな種類の犬とでも会話する耳と舌
そんなものはいらないからすとんと落ちる
僕らはみんな同じ種類の犬同士
同じ鳴き声と同じまなざしと同じ毛色の群れなのです
毎朝余計なものを背負って出かけては
一つずつすとんすとんと落としていき
純粋な同じ種類の犬として
同質性の快楽の中へと収まり
同じであることが居場所を作り上げ
心地よい居場所で仕事を始めます
すると今度は同質性でまとまったところに
見えてくる幾多の異質性
みるみるうちに生えてくる
今度は本物の、翼とたてがみと毛皮と角が
僕らを僕らの役割の中へと
すとんすとんと落とし込んでくれます