葉ずれの、音
服部 剛

若き日の明るいあなたは
処女詩集を上梓して
母親代わりの恩師から
優しい言葉をかけられました

在りし日の母は瞼に浮かび
うわっと涙の数珠が
頬にこぼれた落ちた時

透明の体で影から
ひっそり、みつめていたのは
(生まれる前)の僕でした

慰めきれない哀しみを
只、受け止めたい――と思えども
あなたには打ち明ける恩師があり
なにしろあの頃の僕は
体も無い風だったのですから

母のまなざしでみつめる
恩師の前で
俯いては、涙を拭う
あなたの背後で
ひと時、葉を揺らすしかなかったのです

今生の僕には、家庭がある故
あの時、僕は風でよかったのかもしれません

でも、それでも、間に合いました  
まだ青年詩人と呼ばれる僕と     
長い季節の移ろいに目を細めるあなた
の間にいる(詩)という者は
これからの日々の夢を織り成すでしょう

世代を越えた、午後の詩人の語らいに
ほら、あの日と同じように
何処かで今
緑の葉が、揺れています  







自由詩 葉ずれの、音 Copyright 服部 剛 2014-05-22 21:46:11
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