夢見がち
智鶴

夢見がち、それだけのこと
鮮やかな朝も
黒い砂浜で立ち竦むばかり
影を映した鏡のように
ネオンばかりが手招きしていた

傾けたグラスとレモンと砂糖
見つめた先もぼやけてしまう
移り気を誤魔化すように
危なげな視線を溶かして

「それが例えば」

嘘だったなら
夢も見れず、貴方の吐き出した煙を
手繰り寄せては掴めずに
ジンの香りに噎せ返るだけ
本当だったなら
悲しい筈の物語に、ほんの少し
色が付くだけ

邪な意味など無かった
ほんの少しだけ傍に居たかった
あわよくば
触れてみたかった
霞んで消えてしまうほど
遠い景色だったから

望んでしまったんだ
貴方が欲しいと
薄明るい蝋燭を消して
触れてしまったんだ
遠い景色を
罪と知って、それでも構わないと

向かい合ったジンのグラスが
傾いては艶やかに踊る
ネオン色の海月は皆死んでいたんだ

「それが例えば嘘だったなら」
夢見がち
それだけ

本当だったなら
掌で温くなったジンを捨てて
誰も待たない景色に
夢を期待して帰るだけ


自由詩 夢見がち Copyright 智鶴 2014-05-18 23:48:19
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