冷たい血のささやき
ホロウ・シカエルボク
降りしだく夜など
しのぐ傘はなく
暗闇にずぶ濡れて
たましいが真黒だ
蓋をされた井戸の底だ
崩落した坑道の中だ
古臭く言えば
丑三つ時というあたり
おれを脅かすのは
おれの根のそのものだ
いつか不様に倒れたときの
取り繕いばかりの
口を閉じて、身を隠せ
漆黒の闇はおまえに似合いだ
地底の生物のように
目を潰した気で居るが良い
思惑で現実を塗り潰すなら
それもまあいいだろうさ
相手にするのが自分自身なら
拍手をするのも自分自身なら
てめえの死と共にすべてが灰になることを
知らない振りして喋り続けるなら
おれが欲しいのは結果だ
自由に求めるための
自由に口を開くための
自由に扉を開くための
自由に唾を吐くための
初めておれはそうであると
胸を張って歩くための
権利のない奴らが
ひとかどの顔をする
その中に混じって
あぶく銭拾いたくはない
惨めな暮らしに気づかずに
思い上がりたくなんかない
そうとも、戦場に出かけるなら
勲章を持って帰りたい
ひとをたくさん殺した証にさ
おれが言ってるのはそういうことさ
曖昧さの中に逃げ込みたくないんだ
虚飾の為に喋るなら喉を潰すよ
それがおれの誇りというものさ
よう、最前線だよ
最前線に出るために懸命に走れ
生涯かけて詰め込んだ弾が
誰かを撃つことが出来るのかちゃんと確かめようぜ
「いつでも撃つぜ」なんてハッタリをカマすよりは
実際の引金の重さを確かめろよ
それがなにを撃とうとしているのか
それがなにを殺そうとしているのか
もしもその銃槍に
本当に弾が詰まっているならね
威力を明らかにしてみろよ
確かなところに照準を合わせてみろよ
降りしだく真夜中に濡れそぼちながら
おれはグリップの感触を確かめてる
数撃ちゃ当たる、なんて
鵜呑みに出来るほど蒼くない
どうしても当てたいものを
どうしても当てなけりゃ
生きてようが死んでようが人生はお終いさ
バラして、クリーニングして
もう一度組み直して
どうすれば撃ち殺せるのか考えるのさ
なにを撃ち殺したいんだい
自分自身かい、それとも
過去にすれ違ったいけすかない誰かさんかい、それとも
そんないっさいの諸々を含むすべてかい
そんなすべてのいっさいを殺して
一人きりになるつもりなのかい
なにを撃ち殺したいんだい
それともそれもいまから決めるのかい
たしかに決まらなくてもいいものかもしれないな
撃つという意志が胸の中にあるのなら
だけど忘れるなよ、おまえがそんなことを考えている間に
必ずおまえを撃とうとしている誰かがいることを
おまえの眉間にピタリと
狙いをつけてる誰かがいるってことをさ
降りしだく真夜中の中でも
そいつはたやすくおまえを撃ち殺すかもしれないぜ
どんな言い訳をしても
戦わないやつには敗北しかないのさ
眉間を撃ち抜かれないために
引金には指をつけたままでいるんだぜ
胃袋に放り込まれたように夜の中に落ちていく
闇という酸がおれの精神に火傷を作るころ
おれは銃口をこめかみに当てるだろう
見つけたのさ
ふっ飛ばすにふさわしいものを