よりよき眠りのために
かかり



よりよき眠りのために

爪を切った

髪をといた

浴槽の端に身を委ね

足先をやわらかく曲げた

かかとの奥にある

まるく硬い骨は かすかに

光を放った



さぐるように手をひたす

胸骨の辺りから

まじないのように波紋が拡がる

言葉となるまえの音

意味を成すまえのゆらぎ

確かめるためにすくい上げたら

ほとんどのことが

逃げていった



よりよき眠りのために

獣の脂でつくった石鹸で

すみずみを洗った

小さくたくさんの泡は渦を巻いて排水口から

順番に出ていった

なにものかになれた(はずの)わたしは

鏡で見ていた

時間という妄想についての誤解

自分というありあわせの概念

いったい 何歳だったろう

わたし

浴槽の端にもたれて

足先をやわらかく曲げた





自由詩 よりよき眠りのために Copyright かかり 2014-05-01 02:48:52
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