中野さん
ゴースト(無月野青馬)

古本を読む中野さん
手垢の主を想う中野さん
空想する中野さん
罪悪感、既視感、微かな飢餓感と
言葉を失った持ち主の幻影を脳裡に垣間見た中野さん
古本を読む中野さん
何故こんな良本が中古品として売られてしまうのか、何故持ち主と離れ離れになったのかと訝しむ中野さん
別の場所で、別の誰かが、この本と同じ題名の本を読んでいる可能性を想像する中野さん
古本の中の密かな懲罰の痕を感じ取ってしまう中野さん
死者の意思が解るなら良かったと思う中野さん
死者と疎通が出来たなら良かったと思う中野さん
死者と疎通が出来たなら
こんなに黒いマニキュアを好まなかった筈だと思う中野さん
どこまで行っても
人からは少年時の面影が透けて見えてしまうものだから
どんな人も憎めなくなってしまうけれど
血の染み付いたシャツをコートで隠しているのだから
本当ならもう少しきつい目を送られてもいいのだろうと思う中野さん
古本を読んだり、買ったりする中野さんは
手に入れた本は絶対に転売しない
手にめり込ませた本は、死後も売らないと決めている中野さん
空を視る
何処かで登山者が死ぬ
何処かで性交渉が
何処かで潜水艦が
何処かで赤い閃光に視界を覆われた少女が
何処かで破門者が
現代の裸の王様が
王様の家来達が
物語になっているかも知れない
中野さんは
自分が将来
読むことになるかも知れない物語を
想像している
ガルシア・マルケスのように
想像している
双子の星が輝いている







自由詩 中野さん Copyright ゴースト(無月野青馬) 2014-05-01 02:10:07
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