水物厳禁
葉leaf

俺はこのどでかい建物の中で書類をいじくり
何か血なまぐさい争いでも起きるのではないかと期待していた
人と人とが心底憎み合うような
湿った命同士の争いを待っていた
ところがこのどでかい建物には
水物を持ち込むことが禁止されている
憎しみ合い禁止
愛し合い禁止
仲良くし過ぎ禁止
人間は何よりも水でできた生き物だ
水と水との混じり合いに生きた感情が宿る
愛であれ憎しみであれ友情であれ
一線を超えてしまわなければ
生きるスリルなんてものは微塵もない
このどでかい建物は俺からスリルを奪った
俺の湿った愛と憎しみと友情は
同じく湿った対象を見つけられず
乾いた陸地の上で干からびそうで
死なないように俺の内側に育てていくしかない
水物禁止の社会
確かに世のためになるし利益も上がる
人々は幸せになる
だが人々の命の切実なつぶやきを
お前ら無視して殺しているよなあ




自由詩 水物厳禁 Copyright 葉leaf 2014-04-30 18:33:09
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