老人と水鳥
游月 昭



にわかに降りだした雨を背にうけ
老人は湖の畔を歩いている

大木の梢に目をやると一礼をして枝を折り
数枚の葉を丁寧にむしった

湖に向きなおり何かを見つめている
まもなく雨は上がり
水鳥が毛づくろいをはじめた

老人の背筋がのび
目は湖を越え、森を越え
見えない星まで届いていた



両腕が
上がる

獲物を狙う
猫のように
ゆっくりと

顔の前にきたところで
右手の枝が新しい命を得る
体は景色にとけ
枝はゆるやかに舞いはじめる


大木の葉がかすかに震えだし
風の音を奏でている

枝は大きく円を描き風にのる
地におりていた葉は一斉に舞い上がり
曲線を描きながら枝を追う

空高くから水鳥の群れが飛来し
雲が羽根に掻き分けられるように開く
陽が差しはじめ
湖面の水鳥は歓喜の声を上げる

群れが次々に降り立つと
水面にさざ波が立ち
無数の光が生まれた



老人は大木の根もとに枝を差し
深く一礼をして振りかえり
水鳥をみつめていた

しばらくの後
老人はふたたび腰を曲げ
森の小路へと入っていった





自由詩 老人と水鳥 Copyright 游月 昭 2014-04-25 04:25:32
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