紙袋の中味
服部 剛

日帰りのお年寄りを家へ送り
1日の仕事を終えた後
2才の息子の入院で
3日休んだお詫びに
昨日妻が買ってきた
レーズンサンドがたくさん入った
紙袋を一人ひとりに、差し出した

息子のかぜをもらって
ごほっごほっ…と咳する僕が、残業で
「お年寄りのバースデーカード」を
作る姿を見るや否や
同僚達は集まって、輪になり
テープを切ったり
絵を描いたり
紙を切ったり
それぞれの手が自ずと動くすみやかさに
思わず僕は、口を空け
手持無沙汰になっていた――  

昔々――遠い空の下の異国で
自分がこの世を去る、前夜に
「互いに愛しあいなさい」と言って
麺麭パンを裂き、一人ひとりの弟子に
分け与えた(謎の人)がいたそうだ

そんな立派な人にはなれなくとも
麺麭の代わりに配った
レーズンサンドで皆が(ひとつ)になった
今日の場面の瞬間を
じんわり…思い出しながら
家路に着いて、部屋に入り
一人ひとりの顔を浮かべながら
今夜この詩を、書いている  










自由詩 紙袋の中味 Copyright 服部 剛 2014-04-20 22:55:51
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